第1回 大詰め迎える銀行金利自由化
中国における銀行金利の自由化改革が大詰めを迎えつつある。最後の関門である預金金利の自由化は、金融システムへの影響が大きく、預金保険制度や金融機関の破綻法制の整備が不可欠となる。金融当局は現在、その策定を急いでいる。
貸出金利で市場メカニズム導入
中国人民銀行(PBOC)は従来、金融システムの安定化を図るため、銀行貸出・預金金利に制限を設け、金融機関は一定の収益を確保してきた。しかし、金利の決定を市場に委ねていく方針に基づき、90年代半ばよりインターバンク金利、外貨金利等で段階的に規制緩和を実施。2012年には2度の規制緩和で人民元貸出金利の下限をPBOCが発表する基準金利の70%にまで拡大、13年7月20日にはついにその下限を撤廃した。
金利自由化により真の市場化を進めるためには、規制の撤廃だけでは不十分といえる。そこでPBOCは、9月24日に市場金利プライシングメカニズムを発足させ、10月25日には上海のインターバンク市場で貸出基礎利率(LPR)の公表を開始。発表初日、利率は5.71%(1年物)に設定された。
LPRは、銀行の最優良顧客企業に融資する際に適用する最優遇金利と位置付けられている。しかし、現在1年物の利率しか発表されていないことや相場の変動幅が小さいことから、目下のところ指標として運用されるケースは限られている。PBOCは当面、LPRと並行して基準金利の発表も続ける方針を示している。
預金金利は慎重に自由化推進
人民元貸出金利が自由化されたことで、焦点は改革の最後の関門である人民元預金金利の自由化に移っている。貸出金利の場合、自由化以前から基準金利以下で貸し出されるケースが少なく(13年6月は貸出全体の12.55%→9月10.70%)、市場化の影響は限定的であった。しかし、預金金利の規制緩和はスプレッド(金利差)を圧縮し、銀行経営へのインパクトが大きいことから、PBOCも慎重に改革を進めている。13年7月の貸出金利の下限撤廃時も、12年6月に設定された預金金利の上限を基準金利の110%とする規制は維持された。
預金金利を自由化した場合、市場競争が激化して利幅が低下し、経営に大きな影響を受ける銀行が出てくる可能性がある。そのため、預金者保護の預金保険制度や金融機関の破綻処理制度といった関連法規の整備が不可欠となる。PBOC等の金融当局は現在、その策定を急いでおり、預金保険制度が今年上半期中に導入されるとの観測もある。
一方、PBOCは13年12月7日、インターバンク市場における譲渡性預金(CD)の取り引きを解禁。国有4行と国家開発銀行が12日、計190億元のCDを発行した。当面は最低発行額5000万元、インターバンク市場でのみの取り引きに限定されているものの、市場金利に基づいて取り引きされるCDは預金金利自由化に向けた重要な一里塚。次の一手として、預金金利の上限引き上げも考えられる。銀行金利の自由化はいよいよ大詰めを迎える。


月岡 直樹
みずほ銀行(中国) 中国アドバイザリー部
2004年関西学院大学卒。ビジネス誌の編集を経て、2012年7月より現職。現在、中国のビジネス法規を解説する「みずほ中国ビジネス・エクスプレス」の執筆を担当している。