第5回 中国進出に合弁回帰の潮流あり
近年、合弁形態で中国市場への参入を模索する日本企業が増加している。中国が「世界の工場」から「世界の市場」に変化する中、進出形態にも変化が出てきている。しかし、合弁事業を成功させるには、双方がメリットを見出せるスキームを実現、運営することが重要になる。
事業再編と進出形態の変遷
最近、中国進出形態に変化が見受けられる。昨今の情勢とは別に、「人件費の高騰等で従来のコストメリットが取れない」「合弁事業がうまくいかない」「合弁期限の到来」等の理由で撤退を含む再編を検討する企業が増えている。1990年代以降、日本企業の中国進出は規制緩和に伴い、「合弁」から「独資」へと変遷してきた。しかし、ここにきて、当時合弁しか選択肢がなかった企業等各社は、中国事業の見直しと再構築の時期に差し掛っている。
一方、一時の勢いはないが、新規進出も絶えない。目的はコストメリットではなく、「世界の市場」となった中国市場への参入である。特に規制事業、インフラ、コンシュマー向け販売事業等は、独資での参入が容易ではない。したがって、パートナーとなる中国企業のコネクションや販売ルートの活用が参入の近道になるケースも多い。
当行が手がける案件も、最近では独資進出よりM&A、合弁、提携関連が急増している。中国商務部発表の2013年外商直接投資件数は、総件数が前年比で2152件減少している中、合弁の件数が121件増加している。
中国企業の活用と合弁回帰
中国国内市場を見据えた合弁回帰の潮流は、中国企業と協同事業を行う難しさを乗り越えてでも、中国企業の資源を活用したいというニーズの高まりでもある。すなわち、「中国で売る難しさ」や「独資で一から展開する時間と労力」を踏まえての動きである。
M&Aを前提に中国企業と交渉したが、デューデリジェンスで対象企業の既存事業リスクが発覚し、双方のリスクを限定できる合弁会社の新規設立に切り替えた企業もある。
一方、サービス契約、商取引等だけで提携関係を構築するケースもある。しかし、日本側が知的財産やノウハウを提供するスキームの場合、契約だけでリスクを担保できない場合もある。そのため、責任と役割を明確に定め、資本を投下し、積極的に事業主体となる方がリスク回避できるとして、敢えて合弁事業に踏み切る企業も出てきている。
合弁は「まずは事業ありき」
合弁事業の留意点は法律面など多々あるが、最も重要なのは、信頼し得るパートナーと双方の役割、責任を明確化し、妥協点を探りながらメリットを見出せるかだ。まずは事業ありきである。
利益配分は配当以外に、出資者のノウハウへの対価や商流等、双方出資者との関係も含めて条件交渉することが必須となる。昨今、撤退・解散を検討する企業の中には、進出当時にこれらの包括的な条件交渉ができておらず、日本側に利益が落ちない仕組みになっているケースが少なくない。
また、合弁会社設立後も、合弁会社の組織や中国企業との関係を考え、人を派遣し運営しなければならない。極論すれば、独資でも合弁でも「茨の道」には違いない。しかし、中国市場を狙うには、中国に向き合う姿勢と、問題を先延しにしない粘り強い交渉が今後、さらに不可欠となろう。

進藤 道央
みずほ銀行 中国営業推進部
1996年立命館大学卒、地方銀行入行。営業、香港地区駐在等を担当。05年7月みずほコーポレート銀行入行。中国アドバイザリー業務に従事。07年7月より4年4カ月上海駐在。個別案件のプロジェクトマネージャー。