日本のヤングファッションに対する人気が高まる中、日系ブランドの中国進出が加速している。中国で成功を収めるカギは、ブーム到来時に事業を一気に拡大できるだけの資金力だという。「日系ブランドはアジア戦略の中で中国戦略を考えるべき」と語る事業開発研究所代表取締役の島田浩司氏に話を聞いた。
加速する日系ブランドの進出
――2011年のアパレル市場はどのような変化が見られたか。
消費者から見た変化として、商業施設の多様化が挙げられる。中国ではどの百貨店、ショッピングセンターへ行っても同じアパレルブランドを見かけるが、2010年末にオープンした上海大悦城のように、中国未参入の国際ブランドや北京を中心に展開していた国内ブランドを誘致し、新たな顧客層を生み出す施設も出てきた。
モノを売るポイントは飲食にある、というのが中国市場の特徴だ。消費者は同じような商業施設でも魅力的な飲食店が入っている方を選ぶ。事実、カフェやレストランなどの飲食店が売り場面積の30%以上を占めていない施設は集客できない。そのため、アパレルブランドとしても周辺店舗とどう組むかが重要になってくる。飲食のほか、アップルストアなども“キーテナント”と言え、その有無で出店の是非を判断するブランドも少なくない。
――中国のアパレル業界はレベルが急激に向上しつつある。
最近の傾向として、中国の高級ブランドが輸入生地を使った商品で差別化を図るようになっている。中国では06年以降、安価な最新紡績機の導入で世界レベルの生地が生産できるようになり、世界のファッションブランドがこぞって中国生産するようになった。中国の素材が世界共通のトレンドを生んでいる一方で、中国の素材では差別化できなくなっている。そのため、多くのブランドが輸入生地を使い始めているのだ。
また、中国のマーチャンダイザーやコーディネーターが頻繁に海外出張するようになり、世界のトレンド情報をいち早く入手、それを中国人向けにアレンジできるようになっている。生地品質とデザインセンスの向上により、今後、中国から世界に羽ばたくデザイナー、世界へ向けて発信するブランドが出てくる可能性が高い。
――日本ブランドは中国市場にどのくらい浸透しているのか。
中国では05年頃から、渋谷109に代表される日本のヤングファッションが人気を集めるようになり、09年以降、日系ブランドの進出が加速している。「70后」「80后」が新たな消費者層として台頭し、ファッションの個性化欲求が高まっていることが背景にある。
特に北京オリンピックや上海万博で外国人旅行者に接し、多くの中国人がファッションに目覚めた。10代後半〜25歳を対象とする日本のヤングファッションは価格も手ごろ。中国人消費者の収入増もあり、手軽に日本のファッションを楽しむ人が増えている。
私がいま注目している日系ブランドは「マウジー」だ。日本では十数ブランドを展開しているが、中国では複数ブランドを束ね、「マウジー」ブランドで販売している。安価でファッション性の高い商品が人気で、上海に現在5、6店舗を出店している。
勝てる仕組みの構築を急げ
――中国市場でアパレルブランドが成功するためのポイントは。
資金力が挙げられる。市場展開の過程では、売り上げや注目度が急激に向上する“当たり”時がある。中国ではこの“当たり”時にアクセルを全開に踏めるだけの資金力がなければ、“当たり”を持続できず、一時的なブームに終わってしまう。“当たり”に対する自社基準を持ち、その基準に達した段階で一気に畳み掛ける果断さも必要になる。
日本では全国に500店舗も展開すれば飽和してしまうが、中国では5000店舗を展開するブランドも珍しくなく、それだけ求められる資金も大きい。また、中国では代金回収に遅延などの問題が発生しやすいことから、キャッシュフローに相当の余裕がなければ苦しい。中国で成功しているブランドにはベンチャーキャピタルなどが付いていることが多いようだ。
――VANCLなどのECサイトが急成長している。業界にどのような影響を与えているのか。
日本のアパレル業界は市場が店舗展開から商品・サービスの差別化、カタログ・テレビ通販、EC販売と段階を踏んで発展する中で、段階ごとにビジネスモデルを構築してきた。一方、中国では店舗展開からEC販売までの全段階を一度に構築しなければならない。本来ならばEC販売にもっと力を入れるべきだが、同時に全方向へ努力を割かなければならないので、ブランドにとっては非常に大変だ。
アパレル商品のEC販売が今後、急激に伸びていくのは間違いない。ただ、中国では言語の壁があり、海外の成功事例を取り入れるケースはあまり見られない。
――メンズや子供服の分野は今後、期待できそうか。
男性のファッションセンス向上は女性に比べると遅れ気味だが、人口の大きさを考えればメンズ市場が伸びていくのは間違いない。子供服市場では、粉ミルク事件以降、子供に安心できるものを与えたいというニーズが高まっている。日系企業は品質管理に優れており、安全性を確保したブランドが一気に伸びる可能性もある。競合が少なく、チャンスが大きいものの、この市場で大きく成功したブランドが見当たらないため、誰も成功するやり方を知らないことが難点と言えよう。
――日系企業は2012年、どのように市場を切り開いていくべきか。
店舗やEC販売など、消費者との“接点”別にモノを売る仕組みをリサーチし、勝てるビジネスモデルを組み立てなければ成功できない。まず自社のブランドに近い競合を徹底的に調査し、その競合よりも良い商品、機能、サービスを提供する必要がある。売れた商品だけを見ながら商品戦略を立てても長期的な成功はない。現在の市場は販売した商品がたまたま売れている状態。今後は消費者とのコミュニケーションを図り、そのニーズを取り入れながら商品販売できる仕組みを構築しなければならない。
今後の中国市場ではテレビや雑誌、ネットなどのメディアとうまく付き合える企業しか大きく伸びていけないだろう。メディアとうまく付き合うには、ブランドの魅力や付加価値をきちんとアピールできなくてはならない。消費者とどうコミュニケーションをとるかに関わってくるわけだが、消費者との“接点”が多いほど幅広いファンを獲得でき、売上向上に繋がるのは間違いない。
中国市場に頼らなければ売り上げが伸びない日系ブランドの中国進出が今後も続くはずだ。人口の成長に伴って経済の発展が見込まれるアジア市場において、日系企業はアジア戦略という大きな枠組みの中で中国戦略を考えるべきだ。
――――――――――
島田浩司(しまだ・こうじ)氏
1983年ワールド入社。07年に事業開発研究所を設立。ファッション業界の特徴である「時代性・市場性・客層・デザイン・マーチャンダイジング・価格」をベースにマーケティングとインターネットを駆使し、他業種を含め、新しいコミュニケーションを切り口に事業開発を行うプロデューサー。

トリドール 粟田 貴也 氏
1号店が順調な滑り出し 中国でも「原点回帰経営」を
可果美(杭州)食品
「純正番茄汁」の販売が好調 現地開発商品の一層の拡充へ
新浪 葛景棟氏
「微博元年」の最大の立役者、企業の活用待ったなし
ここが要点!中国ビジネスの基礎知識
中国ビジネスに携わる日本人ビジネスパーソンは増える一方だ。中国は市場特性や商習慣、法規制が日本と大きく異なるため、日々現場で試行錯誤を迫られている方も多いことだろう。
医薬新興市場・中国
世界的な医薬市場の成長が新興国にシフトしていることに加え、新中間層が台頭している中国では食生活の多様化により生活習慣病が増加し、先進的な医薬品へのニーズが拡大している。
商業施設覇権戦争 新・消費大国で商機をつかめ!
中国では近年、経済成長の“主役”が沿岸部から内陸部にシフトし、内陸都市でも消費市場が拡大、小売業のチャンスはますます広がりを見せている。